レポート: 未来スケープ発足の背景(4) 〜 日本の大卒就職率は97.3%

← 前ページ 一本道で一方通行な日本の教育

日本の大卒就職率は97.3%

日本では、高校から大学まで一直線かつ一方向的(大学に戻ることはない)であることは分かりました。それでは就職に関してはどうでしょうか?文部科学省の調査によると2016年3月に大学を卒業した学生の就職率は97.3%という非常に高い数値が示されています(*ソース)。

日本では大学への進学だけではなく、就職に関しても間隔をあけることなくノンストップで続いていくということがわかります。理由は日本のほとんどの企業が「新卒一括採用」を行っているためです。これは世界的にも非常に珍しい仕組みと言えます。例えば伊藤智央氏のブログ記事()によるとドイツの大学、大学院の卒業生の約半数が就職先を見つけるまでに要する期間は6ヶ月以上だそうです。卒業と同時に就職するということは日本以外の国では非常に稀で、当たり前のことではないのです。この当たり前ではない環境はとても恵まれています。

この特別な状況が日本で実現できている理由は同ブログ記事でも様々に論じられていますが、1つには昭和初期に確立したと言われる終身雇用の慣習が挙げられます。終身雇用が広く慣習化した背景として、当時の企業が時間をかけて育成した技術者がすぐに会社を辞めては困るという事情がありました(*)。そして一括採用の理由は、育成(研修)に莫大な費用と時間がかかることから、効率よく多人数で同時に研修を行うために、大学からの新卒者を対象として年に一度実施する、という方式が考えられたのでしょう。このような過去から続く効率性を考えると中途採用は非効率的なのです。そこを出発点とし、徐々に技術職だけではなく全ての業種に対して一括採用、一括研修、終身雇用が適用されてきました。一人一人のスキルを見て即戦力を求める都度採用(中途採用)ではない一括採用方式で、社員の質を担保するために自動的に慣習化しているのがいわゆる「ポテンシャル採用」という考え方です。個人の実践的スキルではなく、有名大学の卒業生かどうか(有名大学に入学できるほどの努力をし、結果を出せた学生)、そして人格的に問題ないかどうか、という2点を主な採用基準とする採用方式のことです。

経済同友会が2016年に実施した「企業の採用と教育に関するアンケート調査」によると、ポテンシャル採用で入社した新入社員について「課題設定力・解決力が十分に備わっている」と回答した企業は31.6%、「異文化適応力」に関しては24.8%となっています。一方で中途採用者に関しては「離職率が高い」「新卒一括採用者に比べてばらつきが多い」といった懸念も示されています。中途採用社の質のばらつきに関しては、現在では転職による人材流動性が十分ではなく、優秀な人材が中途採用市場にそれほど存在していないということも影響しているでしょう。

経済同友会資料より(*ソース

例に挙げたドイツと比較すると、これは日本の学生にとっては朗報とも言える制度です。実務で即戦力になるようなスキルや経験を持たなくても、上記2つの条件(有名大学卒で性格上大きな問題がない)を満たしていれば、終身雇用が約束されている企業へ入社することが出来るからです。学生時代は就職を考えること無く、純粋に興味のある学問に打ちこむことが出来るわけです(ただし就職に有利になるという明確な目標のない状況で純粋に学問に打ち込む学生は少なく、恩恵を享受できているかどうかは疑問が残ります。また最終学年在籍時に就職活動を行うため、むしろ在学期間全部を十分に学習に当てられていないという結果を招いています)。

(*)未来スケープ内関連コラム「日本の大学生が勉強しない理由

近年、終身雇用は失われつつあるという意見も聞きますが、依然として日本の労働基準法が守る被雇用者(社員)の権利はとても強く、経営状況の切実な悪化等が理由である場合を除いて欧米で見られるレイオフのようなことはあまり起きません。つまり今も多国に比べれば限りなく終身雇用に近い慣習が維持されていると考えられます。ところが今後そのような状況が続いていくとは考えにくいのも事実です。その根拠と仮説を示していきます。

→ 次ページ 今後どうなるのか

1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19