レポート: 未来スケープ発足の背景(10) 〜 同一企業で働き続けることは「お得」

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現在の日本において同一企業で働き続けることと転職をすること、どちらが「お得」なのか考えてみましょう。下表は2014年における大学・大学院卒サラリーマンの生涯年収の平均額です。同一企業で働き続けた場合と転職経験者を含む全体との比較が示されています(退職金は除く。データの年次推移はソース資料を参照)。カッコ内は社員数1000名以上の企業の場合です。

  全体 同一企業で働き続けた場合
男性 2億5890万円 (2億9750万円) 2億8470万円 (3億1380万円)
女性 2億50万円 (2億2600万円) 2億4350万円 (2億6250万円)

-----(資料)ユースフル労働統計2016 ー労働党形加工指標集ー、生涯賃金など生涯に関する指標(*ソース

あくまで平均値ですが、日本では同一企業で定年まで働き続けた方が生涯年収は高くなることがわかります。退職金を加えた場合は差が大きくなると思われます。また同資料によると社員数1000名以上の企業ではそれより小規模の企業よりも生涯年収が高い事が示されています(カッコ内)。日本の大企業志向、終身雇用志向が現れている数字です。解雇されるリスクが低いことや高い生涯賃金という基準で考えると、大企業に就職する方が「お得」ということが分かります。

ただしこの平均値はあくまで指標なので、これだけを根拠に「転職はしないほうが良い」と結論付けるのは尚早です。リクルートワークス研究所が行ったリサーチでは転職年齢と転職理由による転職後の収入変化とその後の収入傾向を示しています。

 

転職が賃金に与える短期的・長期的効果 ー転職年齢と転職理由に着目してー、リクルートワークス研究所(p.17)(*ソース

転職には様々な理由があり、その転職理由によって大きな違いが生まれていることがわかります。また転職回数が1回とは限られないため、同リサーチ結果も一つの指標として扱うべきです。

同一企業で努め続けるべきか、転職するべきか否か、転職理由は「正しい」のか、という問に対するたった一つの答えはありません。なぜなら人間は一人一人違うからです。価値観も、お金に対する考え方も、余暇の大事さも、一人の時間の過ごし方も全て異なります。このようなリサーチで現れている数字の内実、つまり一人一人の人生がどういうものなのか、自分にはどういう生き方が向いているのかということに目を向けるべきです。

未来スケープが「一義的な幸福像」に異を唱えているのはこの点です。

例えば生涯年収の平均だけを見て同一企業で働き続ける方が良いと思うあまり、つらい状況に我慢しすぎて体を壊してしまうケースもあるでしょう。これらのリサーチは自分の考えの幅を広げる客観的指標にはなりますが、答えではありません。自分以上に自分のことを分かる人はいません。自分で決めて進んでいかなければならないのです。

自問自答や他者との対話を通じて自分のことを良く知り、親や家族など自分を取り巻く環境とのバランスを考えながら、自分の人生を設計することが自分の本当の目標を設定する上で大切です。そのことを引き受けない限り、自分に合った自分だけの方向性は見えてきません。そして、答えにたどり着くということもまた、永遠に無いと認識するべきです。ずっと考え続けるのです。周りの環境も、自分自身の価値観も時間とともに変わっていきます。自分の人生に自分がコントロールを持てているのかどうかを意識し続けることが大切です。

日本では一義的な幸福像が長きに渡り世代を超えて語り継がれ(時に親のアドバイスとして、時にメディアからの情報として)信じられてきました。確かに時代によってはそれが個人の幸福と一致していた時代もあったかもしれません。世代間で価値観が大きく異なり、その変化の加速度が増していくこれからの時代を生きていくために大事なのは「自分の人生を自分で定義し、自分と違う他者の人生を尊重する」という態度や姿勢です。そして個が他者を尊重しながら最大限のパフォーマンスを発揮するとき、全体としての調和と発展に結びついていくと考えています。

もう一つ大事なことはそのことに気づくタイミングです。人生の早い段階でどのような選択肢が人生には存在するのかということに興味を持ち、自分の人生のシミュレーションを繰り返し行うことです。漠然と信じられている一義的な幸福像だけにとらわれず、自分自身で考え選択していく生き方が必要になってきています。公務員であれ、大企業であれ、起業であれ、外資系企業であれ、実現方法はなんでも良いのです。

一人一人が自分の人生の主人公なのですから、自分自身で考え、選択していこうとする姿勢が大事です。

これらを踏まえて未来スケープの活動を始めようと思いました。次からは実際に未来スケープ発足に至る経緯を示します。

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