「成功」は約束されないが「成長」は約束されている


「成功」「成長」について皆さんはどのように考えますか?

僕は「成長」は、自分の頑張り次第で約束されているものだと思っています。一方、「成功」は自分の努力によって100%約束されるものではありません。その違いを理解するキーワードは「コントロールを自分が持っているか否か」です。僕がこれまでで一番真剣にその違いについて考えたときのことを、事例として紹介します。よくご理解いただけるのではないかと思います。

僕がマイクロソフトで働いていた頃の話です。以前の会社の上司から新しいスタートアップの設立に誘われました。僕はまだマイクロソフト社に入社したばかりでしたので、正直とても悩みました。僕を誘う言葉は色々ありました。「キャピタルゲイン(会社がうまくいって株式公開したときの上場益)でマンションが買えるかも」という言葉も含まれます(笑)。しかし当時外資系企業のエンジニアだった僕にとって一番魅力的で、心を決めるきっかけになったのは次の言葉でした。

「スクラッチからコードを書けるよ(ゼロからプログラミングできるよ)」

外資系企業のエンジニアに共通している悩みは、仕事が「ローカリゼーション(現地化)」しかないことです。製品の仕様は海外の本社で決められ、その英語バージョンが出来上がります。そして僕のような日本法人のエンジニアはそれを日本市場に合うように修正、翻訳、そしてそれに伴うデバッグをすることだけなんです。自然と「自分でも仕様策定をしたい」「一からコードを書いてみたい」という思いが湧いてきます。それらはエンジニアとしての自信のため、キャリアのため、そして喜びのために大切なことでした。

入ったばかりのマイクロソフトを辞めるのは大変でしたし、ご迷惑もおかけしました。でもとにかくベンチャー企業設立へ参加を決めた僕は、そのベンチャーへ投資を検討している投資家と面談することになりました。投資家は企業に投資する際、社長やビジネスモデル、技術力、競合分析だけではなく、その会社の社員も評価する必要があるからです。

オフィス近くの喫茶店に呼び出されて、投資家の方から様々な質問を受けました。

「せっかくマイクロソフトに入ったのに。いいんですか?」

これまで十分考えて結論を出していた僕の回答は以下の様なものでした。

「キャピタルゲインなど魅力を聞かされましたが、それは確定していることではないし、強い期待も持っていません。もちろん上手く行くよう頑張るし、そうなればいいですが、周りの状況もありますから。スタートアップは上手く行っても、上手く行かなくても3年ほどで何らかの方向性が決まると僕は思っています。そして、これからの3年間、僕はマイクロソフトにいるよりもスタートアップで死に物狂いで働くほうが自分が成長できると思っています。そしてそれは自分が頑張りさえすれば確約されています」

投資家に対するふさわしい回答かどうかといえば微妙ですが笑、幸い投資は受けることが出来ました。

そして心の中では僕はこうも思っていました。

「3年後に引っ張りだこのエンジニアになる」

そのベンチャー会社は3年過ぎた頃から勝敗は決し始め、結果的には上場も出来ず、残念ながら上手く行きませんでした。会社は別の会社に吸収されることとなりキャピタルゲインもありませんでした。無念でした。しかし文字通り泣きながら「成功を目指し」働いたおかげで、引っ張りだこと言うほどではないですが、会社が子会社化してすぐに、いくつかの会社からオファーを貰いました。その一つがスカイプでした。共に頑張ってきた仲間を置いて去るのは寂しかったし葛藤もありましたが、自分の当初の目標通り次のステップ(成長)のためにスカイプ社へ入社しました。

成功というものは景気、競合の出現、業界の変化など外部要因があるので、100%自分でコントロールできません。その会社だってもしネットバブルの頃なら上場できたかもしれません。でも前述の通り「成長」は別です。必ず達成できます。頑張れば確約されています。良い会社からオファーが来るのはラッキーでもありましたが、概ね目標通りでもありました。

当たり前ですが、自分がコントロールできることしかコントロールできないのです。コントロールできることの最たるものは自分自身の成長です。そして成長してスキルを付けていくことは、その後の「成功」の確率を高めていきます。僕は成功しているとは思っていませんが、成長のおかげで有利な立場に立っていると思ったことは何度もあります。

みなさんも是非「成功」と「成長」についてよく考えてみて、何か決断をする際に運が影響する「成功」をめざしつつも自分自身の「成長」を基準に考えてみてはいかがでしょうか。その時リスクはゼロになります。僕の一つの指針になっている考え方です。