ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。(原田 まりる著、ダイヤモンド社)

現代の京都に19世紀の哲学者ニーチェが「スマホゲーム開発者」として、突如17歳の少女、児島アリサの前に現れる。斬新な設定ながら、もしニーチェが生きていた時代に本人に会うことができたらきっとこんな感じなのかもしれない、と思ってしまいます。

失恋の悲しさと嫉妬、それから家族との関係で悩んでいた彼女が、ニーチェとのやり取りを通して物事の本質、自分の本当の気持と向き合っていきます。哲学による「覚醒」の過程がやさしく描かれています。言葉遣いも環境も現代という設定のため、多くの読者が哲学というものを実際の自分の状況に当てはめて考えられる事ができ、読み物としても重くなくスイスイと読み進められる良書。例えば言葉遣いで言うと「今のツボったわ、ジワる」というニーチェのセリフに吹き出しました。

後半に登場するヤスパース(現代での姿は医師)が「哲学は伝達への衝動を持つ」と話す箇所がありますが、この本を読んで著者の原田まりるさんもまさにこの衝動にかられて、出来るだけ分り易く、多くの人に伝えたい、という気持ちで筆を執ったのだろうということが伝わってきます。ニーチェ、ヤスパース以外にもショーペンハウアー(喫茶店の頑固マスター)、キルケゴール(読者モデル)、サルトル(ガールズバーも経営する事業家)、ハイデガー(京都大学教授)など個性豊かな哲学者が降臨していて飽きません。日々何となく悩んでいる人、すっきりしない人、哲学に興味があり入門書を求めている人、京都の風情を楽しみたい人、多くの人に手にとって楽しんでもらいたい1冊です。